雨垂れ笹雀

不定期更新でUnityとか創作とかについて書くはずのブログ。ブログ?任せとけよ、もう5,6回はエタった事あるぜ。

拙作『SAVE THE I』を徹底解説し「脚本のソースコード」の具現化を試みる

遡ること少し前、Unity1week業界では「作ったゲームのソースコードを公開する」というムーブメントがあった。

 

こういった即物的で実用的な知見のシェアというのは素晴らしい。俺はその時出したゲームが(以下略)だった、そしてそもそも僕のプログラミング技術は人に見せられるものではないので指を咥えて傍観していたわけだけど、その事が喉に刺さった小骨のようにずっと心の中で引っかかっていた。
思えば今回に限らず、以前からそうだ。僕は「u1wにもノベル要素あるゲーム増えてほしいナァ」と宣いながら、ノベルを書くという部分で有意義になりうる情報共有というのを全然してこなかった。

 

単に「こうしてこう書けば面白いものが出来ます」なんて偉そうに鞭撻を執れる程の技術がないというのもあるけれど、それ以上に何を書けばいいのかわからない。
ソースコード共有の素晴らしいところは、誰がどう使っても同じように動くという絶対的な公平さと客観性を秘めた技術をシェア出来る点だ。けど、ノベルにおいてソースコードと同じレベルの公平さと客観性を秘めた技術とは?国語の授業でもやればというのか。

 

いっそ脚本にもソースコードがあればいいのに……なんて考えている時、思いついた。

 

成果物を例に出して、何を考えて書いていたのか、何のためにその一文があるのかなどを逐一説明していけば、それは脚本のソースコード足り得るのでは?

「こう書いてください」ではなく「こう書きました」なら、ただの事実の羅列だから客観性は保証される。それが意図通り動いているかどうかも、成果物がある以上見た人が判断してくれるだろう。

 

それは良い。
やろう。

 

ということでこの記事では、以前Unity一週間ゲームジャムに出したゲーム、『SAVE THE I』の脚本、ついでに演出や音や絵等々、このゲームを作る上で考えたことのすべてを0から100まで、徹底的に描ける限りの全てを書きます。 

先程は「脚本のソースコード」と書きましたが、これが小説ではなくゲームである以上、脚本とそれ以外を切り分ける事は出来ません。だったらいっそもう全部やっちゃいましょう。プログラミング以外の、目に映るものは全部。ソースコード以外のソースコード全公開です。

 

SAVE THE I | フリーゲーム投稿サイト unityroom

 

ちなみにゲームはこれ。もしプレイした事がない方がいたら、記事を読む前にプレイしていただけるとありがたいです。当然この記事にはネタバレしか書いてないですからね!1プレイ10分もかからないはずなのでよろしくお願いします。

 

 

個人的には「話の意図を口で説明するのってダサい」とか「昔の作品の話を一生してるのダサい」とか「雨垂れ笹雀ってブログタイトルダサい」とか思わんでもないですが、そこはまあ一旦置いときましょう。

どうせ一週間の命として作ったゲームですし、骨までバリバリおいしくいただきましょうということで。u1w絡みで恥をかくのは得意なほうです。ところで今俺のブログタイトルの悪口言ったよな?

 

というわけで、こういう記事で前置きを長々書いてもしょうがないですし、早速始めちゃいましょう!なにせ0から100まで書く記事ですから、どれだけの長さになるのか検討もつきませんが、午後の優雅なティータイムの片手間にでもまったりお読みください……!

 

 

まず、実際にこのゲームを作り始める前に考えてた事から。ボンヤリこういうゲームにしようと柱を立てておいた、一番最初のスタート地点であり最終ゴール地点です。

  • 初見のプレイヤーをぶん殴る
  • キャラクター性を簡略化する
  • なるべくコンパクトに書く

まず「初見のプレイヤーをぶん殴る」。これは最初期から方針として決めていた大目標です。とりあえず初見の人には絶対楽しんでもらいたい。

多少リプレイ性が落ちようとも、初見プレイで驚いてくれればそれでいい。ノベルもパズルもとにかく一回きりの命として、代わりにこの一回だけは全力で振り切ろうというのがテーマでした。

いかんせん長編なんかではなかなか利用できませんが、ゲームジャムとしては効果的な形態だったかなと思います。賞味期限、10分。

 

次に「キャラクター性を簡略化する」。SAVE THE Iは、見ての通りキャラクターの要素が薄い。顔が出ないシルエットだし、名前も全然出てこない。立ち位置もシステマチックにしてます。

何故かというと、キャラクターを掘り下げるっていうのはとても大変で労力のかかる作業なんですよね。何かイベントを起こして、とある事象に対してキャラクターが何を思ってどう動くかというのを見なければならない。

つまり掘り下げとは鏡に映して姿を確かめるような行為でありますが、どう考えてもそんなファッションショーをやってる時間はない。とくれば、キャラクターはある程度ステレオタイプになってでもわかりやすくした方が良い。「糞みたいな持ち主」とか「助けるべきいたいけな少女」とか。

それと、話の展開上プレイヤーが持つキャラクターへの好感度をなるべくコントロールしたかったって部分も。キャラクターとは人によって好き嫌いが分かれるものですが、解釈の余地を減らす事でそのしきい値を削る。荒業。

 

立ち絵がシルエットなのは、大本を言えば「ワイ絵描けないやん」っていうことで立ち絵が用意し辛いせいなんですが、シルエットにするってのは解決策としてはまあまあスマートだったかなと思います。作品の統一感を産みつつもフラットな印象になったんじゃないでしょうか。

今回は語り手である主人公がアンドロイドというのもあり、キャラクター性は全体的にかなり臭いを抑えた、作者的にコントローラブルな仕上がりになってる……はず。少なくとも、嫌われ役としたはずの所有者が人気を博すあまり「所有者萌えスレ」とかが立つような予想外の事態にはなってないと思います。

 

最後に、「なるべくコンパクトに書く」。以前書いた振り返り記事でもちょろっと触れましたが、Unity1weekという場において、あまりノベル部分を長々とは書きたくはありませんでした。

Unity1weekにおいてどの程度ノベルというのが受け入れられるかわからないというのが一つ、そしてゲームジャムという場に出すんですから、ノベルという形式に甘えてウダウダやってたら「長いな」と思われてしまうのは必至。一概に長文が悪というわけではありませんが、今回のびっくり箱的な手法において尺のたるみは必ず害悪になる。

そんなわけで、全体的に脚本の尺はかなり詰め詰めになってます。設定公開も最低限、一番やりたい部分以外は無しでやろうってことで文章の遊びの部分も出さずに書いたので、自分で見てもかなりカッチリした出来。

 

ちなみにこの点に関しては、今回は前述の「キャラを簡略化する」「初見をぶん殴る」という二点から、尺を削るのが得意な形態だった事で出来た面があります。

もし逆に「キャラをもっと魅力的に描こう」とか「読む度に味わいが増えるものにしよう」などを狙っていたら、その分必要な描写量=文章量は増えるのでそうもいかない。ゆえに前二つとの兼ね合いによって実現できたところが大きいです。

 

なお、「キャラクター性の簡略化」と「脚本コンパクト化」というのは、当然ながら絶対これやった方がいいよ!というものではありません。

キャラクターは物語において強力無比な武器ですし、脚本の遊び部分というのは作品の雰囲気や味を出す上で重要なパーツです。この2点はそのまま「作品のにおい」に直結するものなので、特に目的もなくこの2点を遂行しても、無味無臭の謎の球体が出来上がると思います。

今回は「短期間でプレイヤーをびっくりさせたい」という大目標があるので犠牲になってもらっただけであって、取捨選択の結果今回はこうなっただけということだけご了承ください。

 

 

というわけで、以上が「事前に決めてた事」でした。こっからは実際にゲーム画面を見て解説していきますよ。

わかりやすいようスクリーンショットは逐一用意しますが、テキストが進むたびに持ってくるわけにもいきませんので、ゲーム本体片手に一緒に追っていただくとわかりやすいかもしれません。

 

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はじめにここからいきましょう。えっタイトル画面から!?と思うかもしれませんが、そうなんです。実はこのタイトル画面には結構言いたい事があるんですよ。

まずタイトルロゴから。知っての通りこのタイトルは「SAVE THE CHILD」という文とのダブルミーニング?というのかわかりませんが、とにかく一味ばかり仕掛けがあるので、ロゴもそれに対応するものであって欲しいと思って作りました。

文字の下から横に棒が広がっていますが、これはテキスト入力欄のイメージです。上二段はちゃんと文字数に対応した広さになっているのに、三段目だけやけに広く余白が取られていますね。

ここに「CH LD」が入るというわけです。文字が全て大文字なのもその一貫で、ダブルミーニングを成立させるためにはこう表記する必要がある。Save The Iとか書くと崩壊してしまうので、出来れば全て大文字で呼んでほしいですね。まあたまにセーブ座アイとか呼ばれる事があるんですが、そこまで行ったらもうなんでもいいです。好きに呼んでください。

 

それと、このタイトル画面のくせにあまりにパッとしないじんわりとした曇り空の背景。

SAVE THE Iでは、裏テーマとして「天気」を掲げていまして、移りゆく天候が主人公の心情を示唆するようになってます。このタイトル画面、クリア後だとメッチャ晴れてますよね。

ちなみになんで雨じゃなく曇りなのかというと、確かに主人公は当初ロクでもない所持者に雑な扱いを受けているわけですが、果たしてアンドロイドにとってその待遇はそこまで悪いのだろうか?という思いがあるからです。

人間に奉仕するためのアンドロイドですから、とりあえず最低限従事出来ているだけいいのでは、みたいな。よってこの状態はどしゃ降りの大雨というより、うだつの上がらないボンヤリした曇りが適当と判断しました。転職してえなあって言いながら毎日通勤してるみたいなもんですね。

 

天気にまつわる要素として、このスタート画面をクリックするとゲーム開始音が鳴るわけですが、その効果音には「カーテンを開ける音」を採用してます。

SAVE THE Iは曇り空が晴れる物語と言い換えられるわけですから、その示唆として、自分の手でカーテンを開け、陽を浴びる瞬間ってのはなかなかふさわしい。単純な効果音として見ても、スタートにはなかなか違和感なく収まりました。

 

 

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萌えスレが>>1で落ちたと噂の所有者さん!目に映るものすべてを解説すると豪語してしまったので、この冒頭ワンカットからも色々説明していきますよ。

脚本のアレコレは長くなりますから、視覚的に映ってる物体から先に片付けていきましょう。

 

まず背景。前述の通り曇り空ですね。SAVE THE Iでは基本的に、背景素材を油絵風に加工してから置いとくって手法を取ってます。こうすると一気に感じが出ません?写真、もしくは写真風の絵でも違和感なく落とし込めるので、おすすめです。実は前もu1wでやった事があるんですが、その話はいいでしょう。

こうするとなんとなく暗くボンヤリした印象になるのが欠点ですが、今回はそれが逆に役立ってくれました。なんと気が沈むような曇り空か!

 

それと至って当たり前の話ですが、メッセージウィンドウはFungusデフォルトのものから変えてますね。アンドロイド視点として相応しいSFっぽいものをチョイス。右下に生えているメッセージ送りボタンは正直なんでもよかったので、邪魔にならない程度のものを自作。一応グラデもかけてるはずですが見えませんね。

Unityのボタンデフォルトで使うな問題もそうですが、デフォから変えるだけで一気にFungus臭さが消えてリッチに見えますよね。メッセージウィンドウというやつは結構フリー素材が豊富です。

 

あと上下についている黒い帯についても。これはレターボックスという、「16:9の映像を、4:3のアスペクト比に落とし込む」形式で使われるものです。BSでやっている白黒映画の放送だと、番組名に「レターボックスサイズ」とかついてたりしますね。

 

まず前提として、SAVE THE Iのアスペクト比は4:3になっています。なぜかと言うと、アクションパズルパートでレトロフューチャーな電脳世界を出す上で、画面サイズは4:3の方が時代的な収まりが良いなと思ったからです。昔の小型冷蔵庫みたいなサイズ感のぷっくりモニターに、ぼんやり黒と緑が映っているようなイメージ。

しかし、現実世界まで4:3である必要性はない。むしろアンドロイドが普及している以上現代どころか未来ですから、ここが4:3だと時代錯誤になってしまう…………ということで、レターボックスを使って近代的な16:9に帰還しようというわけです。

 

( ^ω^)ま、帯のサイズは適当なので多分16:9にはなってないんですけど…… 

 

小物の解説が終わったところで、脚本の話に入ります。

 

冒頭はとても重要です。世界観や主人公のキャラクター、置かれている状況などといった諸々の説明、いうなれば作品の自己紹介をしなければなりません。
とはいえ今回は「出来るだけ尺詰めるぜ」と決めてあるので、時間に余裕があるとは言い難い。そこで、必要な情報を提示しながらもストーリーが停滞しないように、ある作業と並行しながら情報提示を行います。

 

どんな作業かというと、「所有者を嫌ってもらう」事です。必要な情報の開示を、所有者が主人公にパワハラを行う会話の中に混ぜ込みます。しかし、なぜ貴重な尺を割いてまで所有者を嫌わせる必要があるのでしょうか?

 

荒木飛呂彦の漫画術』では、「王道の物語において、主人公は常にプラスで上がっていかなければならない」とありました。主人公が停滞したり悩んだり、幸せからの上り下りを経由したりといった、「下り」の部分があるストーリーは王道ではないと。
しかしテクニックとして、「スタート地点がマイナスで、そこからプラスへと上がって行くのはアリ」とも書いてありました。最初が一番最悪な状態で、そこからはひたすら上がり続ける。

 

SAVE THE Iも、まさしくその形式をとったストーリーです。クソオヤジの所有者にこきつかわれる日々から、いたいけな少女を守る日々へ、マイナスからプラスへ。その構図を作り出すためにスタート地点をマイナスに振る行為こそが、「所有者を嫌ってもらう作業」というわけです。

冒頭はざっくり言うと「所有者がクソウザイ」というだけの内容ですが、会話の随所に「生活用アンドロイドが普及している」「所有者はアンドロイドを必要としていないし使えていない」「アンドロイドは極めて命令に忠実である」「普段からこんな感じである」などといった、世界観の説明や後の展開のために必要な情報を散りばめています。

 

こういったマイナスへ向かう作業はプレイヤーにとってフラストレーションとなるので、なるべく手早く済ませたい。所有者には好感度0パーセントRTA any%に挑戦してもらってる状態です。

 

所有者をいかに嫌わせるかという点でお気に入りの部分があって、「安酒めっちゃ買ってる」「パチンコ打つ」「女型アンドロイド買いたかったとか言う」「主人公殴る」という要素から、「飲む打つ買う」ついでに殴るで、コテコテなダメDV亭主感を出してます。これを思いついた時点で私はRTAの勝ちを確信しました。
ちなみにこれは余談ですが、主人公が殴られる効果音を探している時、「メキメキメキ」みたいないかにも骨に届いてそうな嫌な音があって、これで殴られたら所有者の事相当嫌いになるだろ、とウキウキに思ったんですが、後にあるトラックに轢かれる音よりもインパクトが出てしまったので泣く泣くボツりました。

 

そんなこんなで、必要な情報提示と好感度下げが終わったらちゃっちゃと切り上げましょう。もし冒頭で飽きられてブラウザバックなんてされた日には、その人の中でSAVE THE Iはなんか知らんおっさんにパワハラされるだけのゲームになってまう。なんてことだ。

 

個人的にはもっとパワハラされたり床舐めたりするだけのシーンを1時間ぐらい入れたいところですが、今回は我慢します。僕も別に、プレイヤーのみんなにパワハラされる苦しさを知ってほしいと思ってこのゲームを作るわけではありませんから。

 

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ちなみにちょっとした小技ですが、こういうシーン。通常とは違い、文の途中で改行があるのがおわかりでしょうか。これは文字が一番右まで行く前に改行を挟んでおくことで、可読性を高めるためです。例えば、

「ギロチンのまさゆ

 き」

よりも

「ギロチンの

 まさゆき」

の方が読みやすいですよね。明らかに変な部分で改行されてると没入感を削ぐので、見落としがなければor何か理由がなければ全部やってるはず。こういう作業って何か呼び方とかあるんでしょうか。僕は勝手にこれをバリ取りと呼んでいるんですが、世界で僕しかこの呼称使ってないので覚えなくていいです。

 

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続いて、少女が飛び出してトラックに轢かれそうになるシーン。ヒュウ!異世界転生出来そうないいタイミングで居眠りトラックがやってきたぜ!

このシーンの目的は、言わずもがな物語の大目標たる少女救出を打ち立てるためですね。明らかに助けた方がいい事に気づいてるけど、命令には絶対服従という二律背反。

さすがに展開としてコテコテすぎるかもと思ったけど、そこはもう割り切ります。元々物語に関してはかなりストレートな出来ですから。トラックの存在確認とともに音楽をフェードアウトさせただけでそこそこシビアな雰囲気は出たのでヨシ!

 

しかし、脚本書いてる時は、多分ここが一番苦労しました。というのも、ここはターニングポイントってことで一気に盛り上げたかったのですが、いかんせんアンドロイドですから明らかに感情が盛り上がってるようなセリフを言ってくれないんですよね。

そのくせ、思考のプロセス=AIの内部処理には色々ややこしい言い回しをしてくるので、「助けたいんだけど主人がこう言いよるからなぁ」って事だけを言うのにも、ずいぶん気を揉むわけです。

 

そんなわけで、アンドロイドの範疇を超えない程度に、ちょこちょこと臭いのある単語を入れてみる。具体的には、少女を助けに行く命令コードは、「助けろ」なのか「救出せよ」なのか、とか。

後者みたいに思いっきりAIっぽいワードチョイスを使ってしまうと、色々回りくどい書き方になってしまうので、感情の発露という印象を強めるために前者を選びました。

こうしてRXC-32本人の意思みたいなのを見せておかないと、単にロボット三原則に従って動いただけでは?みたいに思えてしまうので、それを回避するため一気に口語的にした形ですね。

 

ロボット三原則に本能ってルビ振りにしたのも同じ理由ですかね。ロボットAIのルールというと冷たいですが、本能と言うとずいぶん熱を持つ。理性が入り込む余地がある事も自然と想像させます。人間の愛は性欲とは切り離せないけど、性欲だけが愛じゃないみたいな話。

 

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それと触れておきたいのが、少女を救えるプログラムにするために自分へのハッキングを行う、という行動を「自己ハッキング」って一単語で表現してる部分。時々拾ってもらえることがあって何より。

単語化ってやつはなかなか舐めてかかってはいけない威力があると僕は思っていて、例えば「ヒーローが悪を倒す」って言うよりも、「正義を執行する」って言った方がカッコいいですよね。スタァライトのファンになるって事も、動詞でスタァライトされるって言うよ。

 

意味合いは同じでも、単語化すると一気にキャッチーになるし収まりが良い。SAVE THE Iでこのシーンはこれからパートが切り替わるっていう重要な橋渡しの部分なので、「これから何するんですか?」って問いに一発で答えたかった。

この辺をきっちり立てておかないと、「なんかヌルッとパート変わったな」って思われちゃうので意識的に区切っておく。つまり切り替わり前の二文は変身バンクのような立ち位置ですかね。スタァライトでも「アタシ再生産」が入ってからレヴューパートに入るよ。

 

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そんなわけで電脳空間にやってきたのだ。相も変わらず目に映るもの全部解説していきます。

 

とりあえず主人公の*から。案としては侵入者やバグの比喩としてネズミや虫にするというものもありましたが、ユーモラスすぎて非機械的な表現になってしまうということでボツとなり今の形になりました。

なぜアスタリスクかというと、パスワード入力欄とか伏せ字にしたい部分のテキストって、****みたいにすることありますよね。あれです。現実世界で「犯人」を描こうとしたら、目深なフードを被ってたりコナンよろしく全身黒塗りにすると思いますが、電脳世界でコソコソしてる姿といえばこれだろうと。

 

続いて後ろに流れてる文字。これは最初にサイバー感出そうとした時、とりあえず謎の文字列が並んでればそれっぽいのでは?と思ったのでつけました。当初は壁とかに埋まってるイメージだったんですが、なんか絵に動きがなくて地味だったのでボツ。思ったより画面に映る壁の面積が少なかったというのもある。

それと背景にも浮かべたかったので並べて点滅させてたりしたんですが、その途中で文字が流れていくのを思いついたので今の形に。

 

ちなみにこのアクションパズルパートに入る際、画面が明るくなるより先に文字が先に映るのは最初からこうと決めていたわけではなく、作っている最中偶然出来たものです。暗転用の画像よりも、流れる文字の方がレイヤー的に上だったんですね。

でも見てみるとそれっぽい雰囲気が、出てるのでそのまま採用。ただ画面が明けるだけだとイマイチ入りとして地味なので、この偶然が起きてくれて運が良かったと思います。

 

アクションパズル部分を解説すると、とりあえず……棒!棒が並んでる!明らかなチュートリアルですね。このマウスカーソルは操作方法読まなくてもわかるようと思って後からつけた記憶。

左と右で挙動違うって事を伝えるには、マウスカーソルよりはマウス本体を出して、ボタンを左右で光らせるとかにするべきかもしれませんが、電脳世界である画面の中に、画面外の存在であるマウス本体が出てくるっていうのが強烈に違和感あるのでボツ。

 

チュートリアルという明らかにプレイヤーを向いている存在として出てくると、明らかに作者の存在を感じて没入感削いじゃいますから。もちろんわかりやすさを優先するべき時もあるでしょうが、今回は雰囲気を優先させてもらいました。

 

ステージごとに置いてある鍵を開けて進むわけですが、そのグラフィックが南京錠。ロック解除(物理)。当然電脳世界のロックが南京錠で出来てるわけはないですが、ハッキングというものを視覚化かつパズル化するにあたって、どうせデフォルメする必要性はあるのでその一貫。

 

アクションパズルパートは先述の通りレトロフューチャーな仕上がりなので、こういうナンセンス感を持った、時代錯誤な存在は結構馴染む。後に出てくるアナログ時計とかもそうですね。

 

この鍵を開ける時の効果音はマウスのクリック音になってます。最初は普通に解錠とかの音を使おうと思ったんですが、「ギイイィ……」って重みと遠近感を感じさせる音が電子空間で鳴るのはあまりに不自然だった。

だからって露骨にピコピコした音を使うのもいまいち気持ちよくないので、アプローチを変えてハッキングらしくエンターキーの「ッターン!」とかにしようと。しかしッターンだと鍵開けっぽい根本的なクリック感が足りなかったので、ほどよく乾いたマウスの音に。なかなか気に入ってます。

 

そういえば、このアクションパズルパートの主操作である回転ですが、オブジェクトを回転させている間はキャラは動けません。

理由は以前Twitterにも書いたんですが、早い話が「こうしないとアクションに可能性を感じられちゃうから」です。僕がやりたかったのはメタパズルなわけですが、そこに強いアクション要素を入れる気はなかった。

一度棒をリアルタイムでクルクル回して渡る、みたいなのは試したんですが、楽しいっちゃ楽しいんですが、こうするとこっちが主軸のゲームに思えてならなかった。アクセントに留まってくれそうにないし、となるとプレイヤーもこっちを求めてきそうだった。

いけない脱線の匂いがしました。作るの面倒くさいし今回は見送りということで。これがないと、キー集めるステージで棒に乗って大ジャンプとか出来るのかなって思っちゃいますしね。

 

次のステージはまだチュートリアル。階段登りながら棒を動かすだけ。露骨なくらいチュートリアルチュートリアルすぎて画像も撮ってこない。

この間、キーを集めるステージの事しか考えてません。精々まともなパズルアクションだと勘違いするがいいさ、とか思ってる。

 

その次のステージはNULLブロックとのご対面。まだチュートリアル。少し趣向を変えまして、棒以外も回転できますよって紹介ですね。

 

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続いて大量のNULLブロックのステージ。

イメージ的には「雑多な情報の海をかきわける」って感じ。コメント欄にも書いたんですが、このパズルはブロックの形と回転の自由さから、決まった解法というものがありません。一見するとパズルに見えますが、どっからでも出られるので、好きなルートで行けます。

答えとパズル性が無、Nullのパズルってわけです。SAVE THE I全体に言えることですが、このゲームはアクションパズルを装ったメタジョークなので、最初からパズルで頭を悩んでもらう事を放棄してますね。

( ^ω^)まっ、単にパズルとか作れないせいもあるんだけどな!

 

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次が時計のステージ。デカデカと現れるアナログ時計に、妙なクリア条件。突然の概念系攻撃。

ロックがかかっているステージは問題提示としてシステムメッセージが浮いているのですが、その文章はクリア時に変化します。その文章はステージごとに違って、ここは「Done」。

 

こことキー集めステージ、どっちを先に出すかかなり迷った記憶があります。何ならキー集めを先にしてた気でいた。

というのも、次のステージであるキー集めは回転要素を最初に考えた時から存在する肝入りステージなわけですが、ステージ順でそこの威力が変わってくるからです。

この箇所にあるステージは、さっきまでまともにブロックを動かすパズルだったのに、突然理屈が変わったという急展開の渦中になる。アハ体験としてはキー集めを先にした方が強いでしょうが、あまりに急すぎて仕掛けに気づくまでに時間がかかってしまう恐れがある。

そのため、時計ステージを先に出しておくことで、「こういうやり口もありますよ」とばかりにブロックの回転以外の、物理的な障害排除以外の解法を顔見せしておく。ただし、この時キー集めステージの威力は多少落ちるだろう。

 

どの程度リスクを取るかって話ですね。とはいえあんまりパズルでウンウン悩んでほしくなかったから時計先にしたのかな?よく覚えてませんが、当時の俺と今の俺が同じ事考えてたらそうなはず。

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なんて噂をしてれば、キー集めステージです。

最初に告白しますと、このステージでほっとくと6と9が回転しだすヒント機能があると思いますが、当初はこれついてませんでした。

「なんだかんだわかるやろ」とか思ってました。思ったよりわかってもらえませんでした。別にパズルに頭を悩ませてもらうのが主目的でもないんだから、無駄にふるいにかけるような真似をするべきではなかった。反省してます。

 

何が怖いって、ステージの優先順位の話では「キー集めで詰まられたら困るな……」って認識はちゃんと持ってるのに、ヒントをつけようって発想は出てこなかったこと。灯台下暗し。先入観っていうのは恐ろしいなぁ……。

 

というわけでキー集めですが、アクションパズルパートはもうこのステージのためにあると言っていい。回転ギミックを考えた時に一番最初に思いついた部分であり、ここまでのパズルここで不意打ちをするための前フリですらある。

SAVE THE I全体に言えることですが、「ほなワイここでこうするから」っていう本番の部分を先に決めといて、後はそのための地ならしをしてる状態になってますね。この組み方短編だと強いかもわからんね。

 

ところでまだ書いてない事に今気づきましたが、ブロック衝突時のエフェクトの話がまだでしたね。ブロックが壁やブロックに衝突した時は、回転失敗を伝えるためにパーティクルとエフェクトが出ます。

回転出来なかったという不快感を、絵的な面白さで少し相殺出来た気がする。お気に入り機能です。

 

パーティクルでは「error」という文字が出てきます。最初は単に丸いエフェクトだけを出してたんですが、エラーって単語を使いたいな、と思って追加。

大文字「ERROR」ではなく小文字「error」にする事で、全体的に丸い印象になるので単に視覚的効果としても馴染みが産まれる。一回大文字でもやってみましたが、ただ文字が浮いてるだけで違和感バリバリでした。

 

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続きまして穴埋めパズル。タイトルのダブルミーニングを出すと同時に、後で「自分=Iを犠牲にして子供=CHILDを助ける」という展開のための仕込みでもあります。ここでタイトルが「SAVE THE I」から「SAVE THE CHILD」に変わるわけですね。

プレイヤーが自分の手で状況を変えていく、という能動性を大事にしたかったので、タイトルもプレイヤーの手で変えて欲しかった。

 

それほどストーリー先行なステージなため、あまりパズルとして詰まられても困る。そのため消去法で絞りやすいよう、入れる文字候補の中に明らかに違う記号やらを入れておきます。

こんだけ皇甫嵩……なんだこの漢字!?候補数が絞られれば、わからなくてもとりあえずクルクルしとけばピンとくるはず。おかげさまで、ここで詰まったという声はあまり聞かなかったのでほっと一息。

 

クリア後のシステムメッセージは「ACCEPTED」。なかなか気に入ってる単語チョイスです。

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めっちゃ通路。解錠の効果音が結構気に入ったという話はしたと思いますが、これが連続してカシャカシャカシャ~ってなったら気持ちいいかもな~と思って、勝利確定演出的な気持ちで入れてみた場所です。

見ての通りゲームプレイ的には単に歩くだけの場所ですが、「まあこのゲームのアクションパズル部分なんて全部演出みたいなもんやしええやろ」という開き直りで搭載されました。

 

友人にやってもらった時ここの演出が好きと言ってもらえたりもしたので、作るの楽なわりに無意味ではなかったかなと思ってます。僕も結構好き。

 

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勝ち確ダイブ。コメント欄にも書きましたが、この穴にはセキュリティホールという名前がついております。ハッキングの目的地って言ったらこれしかないでしょうと。

 

ダイブした際のカメラ演出は自分でも気に入っています。鏡の大迷宮か何かでカービィワープスターに乗った時のアレみたいな、加速していってカメラを振り切るっていうのはスピード感あっていいですね。

 

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現実世界に戻ってまいりました。画像のワードチョイスも単語化の一環ですね。

 

ここらへんは明確な盛り上がりどころとして作っている部分で、脚本的にも山場。こういったキメどころのシーンを書く上では一つ念頭に置いていることがあって、とにかく何よりも作者が恥ずかしがってはいけない。自分が一番ノりながら書きます。

これは僕には珍しく断言出来るところなのですが、どんなにカッコいい文章も読者が冷めながら読んてたらダサいしキモいです。問題なのは読者がノるかノらないかであって、そこはもう不可侵領域。頼むからノってくれ!って思いながら書くしかない。

誰がどう見てもダサくない文章なんてものを書こうとしたら、絶対につまらないものになると思います。

 

つまり、フルチンですよ。結局ダサダサロードを全裸で爆走するしかない。下手に恥ずかしがって股間に葉っぱとか添えるのが一番恥ずかしい。文章とは、フルチンダッシュすることに見つけたり。

そんなわけで、この辺はひたすらにフルチンで書いてます。もし僕の文章が他の方々に勝っている要素があるとしたら、間違いなくこのフルチンっぷりだと思いますね。

 

技術的な面では、アクションシーンとして疾走感を持たせたいので、明確な経過時間を添えながら地の文を書いたり喋らせたりすることで、いかに切迫した状況かというのを表現しています。

通常、こうした時間経過が作中に存在するのは違和感が生まれやすく、時止め経過1秒間の間に「ンッン~一つ歌でも歌いたい気分だな」とかメッチャ喋ってる人が産まれたりもしますが、AIの思考なら早すぎるくらいで全然OK。

 

衝突までのカウントも0.9秒とか言って小数点刻みにしてあるので、人間だったらありえない描写ですね。こうして具体的な数字を出すのはどんな時でも効果的ですが、値の設定をミスれば一気に全部の描写がガバガバに見えてくる諸刃の剣。

 

今回は例のシーンに向けて緊張感を詰めていくためにハッタリ重視で秒数カウントを使っていますが、内心「この数字無理あるんじゃねえか……」とか戦々恐々しながら打ってました。

数字というのはフィクションに存在する「そういうもんだから」の余白を奪うハイリスクな存在なので、本当はあんまり使いたくないですね。ちょっと設定ミスると、サトシがヨーギラス(72kg)を頭に乗っけてるよ!!!とか言われちゃうし。

 

しかし!幸いな事に今の僕はフルチンなので、細かい辻褄合わせのために魂を売ったりはしません。こういう時躊躇わないために、僕らはパンツを脱ぐんだよ。

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そんでもってフルチンのまま例のシーンです。SAVE THE Iはここがやりたくて作ったゲームだった。できるだけ使いたくない数字を使ったもう一つの理由。

個人的にこういうゲームシステムとストーリーの融合みたいな演出が大好きなので、この辺はもうやりたい事やってるだけです。この演出と共に心中しますって感じで、全てをここに振る。

お話の上で「何を見せたいか」の自覚は重要だと思っているのですが、SAVE THE Iはこれと後のもう一発を見せるためのゲームだと最初から認識して作っていました。後のシーンは大抵逆算の産物ですね。

 

作者的にして欲しいリアクションは、まずプレイヤーに一瞬「ヒエッ」と肝を冷やしてもらって、気づいた瞬間脳内で一気に逆転する。という流れ。

そのため、ここまで流れていた音楽はややブツ切り気味のフェードアウトを行わせ、真っ暗な画面の中絶望的な数字だけを出す。

 

しかし、その表示を黒背景に緑文字という形にすることで、アクションパズルパートとの繋がりを見出してもらい、一つの発想に至ってもらう。そして1回目のクリックで回転が起き、勝ちを確信しもう一回クリックすれば、「ピピピッ!」というお馴染みの音が流れて無事解決、という流れです。

プレイヤーのみなさんがどのくらい僕のしてもらいたかったリアクションを取ってくれたかはわかりませんが、とりあえず「ピピピッ!」くらいは気持ちよく聞いてもらえたんじゃないでしょうか。

僕としては、こういったシーンを通して音もストーリーの一員であるという事を学びました。BGMのフェードアウトのさせ方なり、効果音の意味なりにも文法と物語がある。

 

それと暗転についても。SAVE THE Iでは何度か暗転を用いるシーンがあるのですが、その際の基本ルールとして、ホワイトアウトはポジティブな意味、ブラックアウトはネガティブな意味で使っています。

00.001%でブラックアウト、ひっくりかえしてホワイトアウトになるこのシーンは、まさにそれが如実に出てますね。

 

例外的に、アクションパズルパートに入る時なんかは主人公が目を瞑るイメージだったのと、そもそも背景カラーが黒だからという事情を優先してブラックアウトです。

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アンドロイドに生存確率0%という試算をしてもらうことで、死の覚悟を感じてもらう。ポルナレフが「あばよ、イギー」って言ってる状態ですね。

この辺りは語り手がアンドロイドで得したなと思う部分で、0%っていうなら本当に0%なんだろうなって受け入れてもらえる。機械というやつは計算のプロフェッショナルですから。

 

この生存確率というのは出すたび用法が変化している面があって、最初に使ったトラックがだんだん接近しているシーンでは、緊張感を出すためのツール。回転する時は、パズルとノベルの橋渡しと逆転の象徴化。そして0%になってからは、チェックメイトのコールと幕引きの導入役。

ただ機械的に出しているだけでも、説明やら演出やらと結構色んな役割を果たしてくれてるのがわかるんじゃないでしょうか。

 

こういった「単語の再利用」というのはなかなか効果的な手法で、文章がまとまったりうまい事言った感が出たり宝くじが当たったり彼女が出来たりとえらいこっちゃになるおすすめテクニックです。

このゲーム自体、タイトルのミーニングから主人公の名前まで、あっちらこっちらで単語の再利用をしまくりですしね。無駄のない脚本を作る、という点では最強かもしれません。

 

落語の『芝浜』が「また夢になったらいけねえ」で終わったり、戦場に向かうスネ夫が「この戦闘機3人乗りなんだ」とのび太を置いて出撃するのもある種単語の再利用といえますね。さっきの生存確率のような細かいパーツから落語の大オチにもなる、サイズ感の可変っぷりも魅力ですね。

 

とはいえあんまりにやりすぎるとくどいので、コッテリしすぎない程度に使うのが一番気持ちいいかなと思います。まぁ、フルチンコッテリオイルレスリング状態のゲームで言うのもなんですが。

 

ちなみに、このあたりで使われている突進してくるトラックのスチルは、素材を探してもいい感じに正面からトラックを撮った絵が見つからなかったので、ならばいっそと思って自分で撮りました。

 

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トラック撮影中の俺

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そんでもって、こちらが加工前の写真。普段ミニカーを「ぶぅ~~ん」とか言って走らせて遊んでいるわけではないので、埃が積もってますね。これでも払った方なんですが。

普通だったら写真をそのまま持ってくるのは難しいですが、さっき言った通りこのゲームでは背景を油絵化加工して使っているので、馴染ませる手段はある。こんな明らかにミニカーな写真もこの通り!

 

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おっしゃらあ!油絵化加工+迫ってるっぽいエフェクト+フロントライトの部分に光を追加などなどを行うことでで、なかなかそれっぽくなりました。ちなみにこの時使ったツールは全行程Gimpのはず。

もしここの絵が用意できなかったら、一連のシーンが書きづらいどころの騒ぎじゃなかったので、なんとかなって本当に良かった。油絵化加工さまさまだぜ!この手法は本当におすすめです。

 

衝突するシーンでは、BGMを完全にブツ切りにして暗転もフェードアウトではなく即真っ暗にして死亡の示唆をします。ありがちな手法ですが、既存のフォーマットに乗っかると、見ている側に言語抜きで何が起こったのかを伝えやすいのはいいですね。

 

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ねぇ、この「はー、はー」って普通伝わらないのかな……いやそれより、お墓参りのシーンです。フルチンから一転ここではパンツを履きまして、小手先を使い理性的に書きます。というのも、結構気を使って書かなきゃならない部分が多いんですよね。

 

なぜなら、展開上ここには絶対に説明セリフを挟まなくてはならないからです。

早くクライマックスに行きたいのはやまやまですが、事故から一気に時間が飛んだため、このままではプレイヤーが置き去りになってしまいます。「えっ?どうなったの?」という疑問に答えてあげることで引っ張り上げなくては。

 

振り返り記事にも書いたのですが、このシーンは一挙一動一言一句全部が説明になっているため、しんみりした会話とは裏腹にカチカチに理詰めな台詞回しです。考えなくてはいけないポイントを2点に分けて考えてみましょう。

 

まず1つめに、情報をどのように開示するか。

今までは主人公視点の語りや視覚情報が使えましたが、ここでは主人公は墓の中。立ち聞きしている台詞のみを用いて説明しなければなりません。

とはいえシチュエーション的には、単なる親子の会話ですから。こっそり情報を混ぜ込む機会を虎視眈々を伺いつつも、台詞回しが嘘くさく感じないように……というよりは、説明させたいあまりキャラに嘘を言わせないように、台詞が死なないように細心の注意を払います。

 

大前提として、キャラクターを殺さなきゃ入れられないシーンなんてのは入れるべきではないですから。

 

今回はストーリーのファクターとして「少女の感情の発露」というシーンが必要だったので、その訴えという形でなんとか言って欲しいことを言ってくれました。ブチギレながら説明させるっていうのは今見てもなかなか荒業で、もっと大人しい子だったら何も言ってくれなくて詰んでたぜ……。

 

そしてもう1つ考えなければいけないのが、情報をどの程度の量開示するべきか。

 

この後墓の中から復活するのは決まってるわけですが、何の理由もないまま何故か蘇るというのはさすがに良くないので、蘇るための種まきとして情報提示が必要です。

とはいえ、お話においては「こまけぇこたぁいいんだよ!」が必要な時もありますし、このシーンはまさにソッチ寄りです。とあれば、しつこくない程度に抑えて提示するのがベストでしょう。

 

脚本を考えてる段階では、アンドロイド開発技術の立役者である天才科学者とか会社側の人間出すか、とかも検討したんですが、どうも脚本に贅肉がつきそうだったのでボツ。

結局出す情報は「会社の人が墓作った」「まだ治るって言ってた」だけに留めておいて、想像の余地は残されてる程度の塩梅にしておきました。

 

とはいえ特に復活の理由を語っているわけではないので、人によっては「なんかわかんねえけど蘇った」に見えるでしょうが、問題ありません。「復活した理由語りすぎてて萎えた」と思われるよりずっといいです。

 

というわけで、ぜぇ、ぜぇ……。「どうやって出すか」「何をどこまで出すか」の2点だけでもこうややこしくなるんですから、説明シーンがいかに面倒くさいかというのがわかってもらえたんじゃないでしょうか。

説明シーンで難しいのは、絶対に入れなきゃいけない部分だけど、ちゃんと作品の一部として馴染ませなきゃシーンが簡単に死ぬっていう繊細さですね。

 

今回はシーンの緩急をつけるという役割が味方した事と、シチュエーション自体を結構面白く出来たと思っているので良かったですが、説明シーンの設計っていうのは悩みのタネです。読んでいて「もっと詳しく教えろよ」と思う人もいれば、「退屈だから早く進めろよ」って思う人もいるだろうし、読み手に負荷のない説明シーンというのは工夫が要ります。

こないだ見たアニメでもAパートがほぼ説明シーンだったんですが、その間女の子がお風呂入ってたりゲームしてたりしてました。どんなに説明聞いてなくても「アズズちゃんkawaii!」で満足出来てしまう……なんて冷静で的確な判断力なんだ……!

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といった説明を乗り越えて、やっとの思いで起床できます。パンツ脱いだ。

 

おなじみ回転ギミックで墓をパカッと開くわけですが、ここに至って回転ギミックは完全に寿命を使い果たします。というのも、ゲーム内で回転ギミックというのは第四形態まで変身するように出来ているんですね。

 

『初見』→『時計や6と9の回転』→『00.001%』→『墓』というタイミングで変身していく算段。結構大事な仕組みなので、ちゃんと解説しましょう。

 

『初見』では、回転ギミックはよくありそうなパズルっぽいギミックです。ただ棒を回すだけで、「そういうゲームシステム」としてナチュラルに受け入れてもらえることでしょう。

 

『時計や6と9の回転』において、その発想を一度転換させます。おいおいそういうのもあるのかよ、と。一定のルールの支配下にあるパズルから一歩進んでメタ視点を取り入れることで変身を遂げる。

しかしこういった飛び道具というのは最初がピーク。仮にパズル部分のステージをもっと増やして、パズルとして色んなものを回したとしても、初めて69回転に気づいた時くらいの驚きはないんじゃないでしょうか。そういう意味で、ゲームシステムとしてはこの時点で完成したと言えます。

 

逆に言えば、パズルの用法ではもう飛躍的な伸びしろがない。というわけで、 『00.001%』のシーンでは、さらに外側、ノベル部分のストーリー展開に手を突っ込みます。回転はパズル上のゲーム的ギミックであるという先入観を利用させてもらう。

枠の外に外にと、プレイヤーの視野を広げていくイメージです。スケール感をどんどん増していくことで、常にプレイヤーの意識の背後に立つ。一次元から二次元、二次元から三次元。

 

とはいえ、さすがに来るとこまで来たって感じです。はなから飛び道具とはいえ、ここから先はさすがに遠投すぎて、僕の制球力では御しきれません。この球扱えたらドラフト首位指名間違いなしですよ。

というわけで、変化球を投げるのはやめて開き直ってストレートを投げちゃいましょう。裏の裏、つまり表に帰ってきます。そう、『墓』ですよ。

今まではプレイヤーを驚かせるため、「バレないでくれ!バレないでくれ!」とコソコソ回転ギミックを出してきましたが、今回は逆に「気づいてくれ!気づいてくれ!」と大手を振ってお出しします。

 

画面にお墓を出す前に、「命令を確認」という台詞を入れて前フリをしてありますね。あれはまさしく「今からボール投げます」という宣言ですよ。もしかして、と思うはずです。墓が出てきた瞬間、何をすればいいのか瞬時に理解してもらえたはずです。

 

プレイヤーが変化球に慣れきった事を利用して、回転ギミックを「いつもの」に変貌させるんです。「何やるかバレちゃった」ならそれは「定番」になったということですから。

水戸黄門』は毎回「控えおろう!ここにおられるは水戸光圀公にあらせられるぞ!」「はは~っ!」で終わりますし、映画『キングスマン』のラストシーン、酒場に入った時点で視聴者はそこから先の展開を察する事が出来ます。それでいいんです。

バッターの狙い玉を打たせない物語は、ただの逆張りです。裏をかくのは良い事ですが、期待を裏切るのはいけません。

 

作る側と観る側が手と手を繋いで同じバージンロードを歩く。それが『王道』だと思います。このオチである限り、作者的に『SAVE THE I』は王道であると胸を張って言えるつもりです。

 

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最後にお題回収。ちなみにこれは事前に計算してたとかでは全然なくて、脚本をあらかた書き上げた後、「あんまお題回収できてねえな」と「なんかオチ弱えな」という懸念を感じまして、そこについてウンウン唸ってたら偶然ドキドキドッキングできただけです。

当初主人公の名前は「なんかロボっぽい名前」って感じで、RXC-01とかそんなんだったはず。このネーミングの適当さにも快くない思いをしていたので、これらの借金を一括返済できる策を思いつけたのは幸運でした。

 

この点はヤッタ~いい感じに思いついた~以外特に話すこともありませんが、強いて言うなら「なんか足んねえんだよなあ」という感覚は大事にしたほうがいいのかもしれませんね。言語化出来ていないだけで違和感は確実に存在するわけですから。

 

なお、このシーンは墓から出た瞬間どれだけ開放感を出せるかがキーだったので、今までのノベルパートにあった「油絵加工」と「黒い帯」を用いていません。

 

「油絵化するとぼんやり暗くなる」というデメリットは前述の通りですが、それを逆手に取ることで、ただ無加工なだけの青空をメチャクチャ綺麗に見せる。

「画面比率の調整のためレターパックサイズに」という事ではありましたが、やはり上下に帯があると狭く見える。よし!とっぱらっちまおう!えっ、画面が4:3になる!?あんだけ語った画面サイズへのこだわりが無意味になる!?うるせえ!!!!!!!111

 

大事な事は理屈ではなく墓から出た瞬間どれだけ開放感を出せるかなので、細かいことは無視します。この開放感を感じるために、僕らはパンツを脱ぐんだよ。

 

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クリア後にタイトル画面が変わるのいいよね!僕も大好きだ!

当初は黒かったロゴも白にしまして、かなりスッキリしました。ロゴの色は、締め切り前日にコンビニに行った時空を見ながら決めました。やっぱり水色には白が一番映えますね。

 

タイトル画面のBGMに関しては、はなからこの瞬間のため、「最初の2秒で切なくなれる曲」をテーマにして選びました。タイトル画面に帰ってきてイントロを聞いた時っていうのが、ゲームを終える瞬間として一番気持ちいいと思うんですよね。

初めてFF9をクリアした時、クリア後セーブもしないままタイトルに戻ってきて『いつか帰るところ』を聞いた瞬間、「ああ、終わったんだ」と感じた思い出が強烈でして。ああいった出だしから哀愁漂う曲をタイトル画面に据えたいという性癖は僕の中に強烈に残っています。

 

ゲームBGMって、最初の数秒で決まると思いませんか?プレイヤーはゲームに没頭しているわけで、その間常にBGMへ耳を澄ませているわけではありません。そんなBGMに一番注意を払う瞬間というのは、新たに曲がかかった時、その数秒間だと思うんですよね。

記憶に残るBGMの部分というののはいつもイントロな気がします。ポケダンの「けっせん!ディアルガ」とかUndertaleの「Battle against a True Hero」なんかも、サビも強烈ながら僕的にはやっぱりイントロですね。

 

というわけで、以上各シーン解説でした!脚本は2日くらいで書いたブツなので完璧とはいかないかもしれませんが、個人的にはなかなかまとまっていると思っています。

 

ちなみに脚本を書くときの考え方としては、ロジックが半分ノリが半分くらいの自己認識です。

解説記事である都合上ロジックの話しかしてきませんでしたが、最初から計算づくで書いてるかというと全然そんな事はありません。書いている最中は「なんかこうした方がいい感じだな」程度にしか考えていなかったりもしますし。

 

 

事前に「どこが見せ場か」「何を見せたい作品なのか」といった決め事だけをしておいて、あとはもうライブ感で書く!時間をかけてロジックだけで詰めていくみたいな手法もあるはずですが、僕はかなりの感覚派なので正直苦手……。

この手法の何がいいって、ライブ感で書くとは言いつつも、決め事によってある程度手綱は握られているので大暴れすることはないという点が素晴らしい。個人的には一番楽な書き方ですね。

 

意識的に頭を使うのは細かく特定シーンにフォーカスする時が多いです。このゲームで言うと、冒頭やお墓のシーンのような情報開示の仕方を考える時や、主人公をアンドロイドっぽくするために台詞回しを変える時とかは顕著ですね。

 

直感というのは言語化されていない無意識レベルでの思考なので、僕の場合大枠を考える時は直感に任せたほうがいっそスッキリ理論立てされていたりするんですよね。

ざっくり書くだけ書いたら、それを客観的に分析することで直感を言語に再翻訳する。すると頭では考えていなかった部分の理論や構造に気づけて、逆にどこが欠けているのかも検討する事が出来る。

 

僕は基本的にこれの繰り返しをしている気がします。ひらめき頼りになっちゃうのが弱点ですが、この方法でアドリブをしまくって、自分でも思ってもいなかったような繋げ方を出来た時が世界一楽しいんだよなあ。

作品に導かれたみたいに、後から意味がついてくる。そうなると一種のトリップ状態みたいになって、最高に楽しくて何もかもうまくいく気がしてくる。

 

今回だとお題回収の時なんかがそうで、それ故に『SAVE THE I』は僕にとって渾身の作品だと大手を振って言えますね。

 

 

以上で、僕に書ける事はだいたい書いたつもりです。もし何か聞きたい事とかあれば、twitterでも通して聞いていただければ答えます。

 

もしこれを読んでいる方が、これらの記述を何か一つでも役立ててくれたら、この記事は大成功といえるでしょう。

 

僕は物語の一番素晴らしいところというのは、誰でも今すぐ書けるというところにあると思います。

UnityにはFungusみたいな超お手軽にノベルをつけられるアセットもありますし、ストーリーテラーへの道は誰にでも開かれています。プログラミングや絵だったらこうはいかない。

 

書いてみませんか……ストーリー!たのしいよ!